憲法Q&A

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憲法96条って何?今なぜ変えるの?

改憲手続を簡単にしてしまい、憲法9条などの改憲を実現しようという企みです。

憲法96条は、日本国憲法の改正要件として、国会の両院の総議員の3分の2以上の賛成によって発議し、国民投票を経なければならないことを定めています。
この国会の発議要件を両院議員の過半数に引き下げ、改憲手続きを簡単にしてしまおうというのが、96条改憲です。

安倍首相は今年7月の参院選で96条改憲を公約にしたいと話しており、参院選の結果によっては、現実に96条改憲の発議がなされる危険が迫っています。
もちろん、96条と他の条項とともに改憲することを提起することも十分考えられます。

96条改憲に限って言えば、そのねらいは、改憲要件を緩和したうえで、9条改憲さらには、改憲派が求める改憲案を実現しようとすることです。
昨年4月、自民党は「日本国憲法改正草案」、みんなの党は「憲法改正の基本的考え方」などを相次いで発表しました。
これらは、いずれも9条改憲を中心にしながら、天皇の元首制を明記するなど日本国憲法の基本原則をないがしろにする改憲案です。
石破自民党幹事長は、「96条改憲の国民投票に付した場合について、国民は9条改正を念頭に置いて投票していただきたい」(2013年4月13日読売テレビ番組)などと96条改憲のねらいを公言しています。

しかし、96条改憲は、単なる手続要件の改変ではなく、憲法の原則そのものを壊すことです。

96条は権力の濫用に憲法で歯止めをかけるという立憲主義に基づく規定です。
96条改憲により国会の発議要件を過半数に引き下げることは、時の権力である国会の多数派によっていつでも改憲の発議ができることとなります。
権力が憲法という自らの歯止めを、自らの都合のよいように緩めることを認めれば、歯止めの意味がなくなってしまいます。
改憲を容易にする96条改憲は、立憲主義等憲法の原則に反しています。
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96条改正を先行させるのは憲法改正の進め方としていいの?

9条改憲などの本音を隠して改憲をやりやすくするアンフェアなやり方です。

96条を改正して憲法の改正要件が緩和されれば改憲がしやすくなります。

反対が強い憲法9条などの改正は先送りにして改正のハードルだけを下げて、憲法を普通の法律と同じように変えやすくしてから9条改憲にとりかかるというのが安倍首相の本音です。
今のルールのままでは憲法9条を変える自信がないので自分の都合の良いようにルールそのものを変えようというのです。

自民党は、憲法改正草案を発表して9条を変えて国防軍を創設したいとか、天皇を元首にしたいと言っています。
そういった改憲の中身や目的を国民に明らかにしないまま先に憲法の改正だけをやりやすくするというのはアンフェアです。
改憲派の憲法学者である小林節さんでさえ「権力者たちが、憲法の拘束へのいらだちから、憲法を憲法でなくし、法律のように変えようというのは、ぼくの言葉でいえば『邪道』です。大学でいうと『裏口入学』。」だと批判しています。
諸外国でも改正要件を変えるための憲法改正が行われたという例はありません。

そもそも憲法改正に両議員の総議員の3分の2の賛成による発議や国民の過半数の賛成という厳しい要件が決められているのは、憲法には国民主権や基本的人権など、この国のあり方を決める根本的な原理などが定められているので、その改正は慎重に行わなければならないからです。
国民主権の考え方に立っても、改めるべき条項があるのであれば国民に十分にその必要性を語って、国会で議論を尽くして党派を超えた大多数の合意を得ることが必要です。
改正要件を変える必要はありません。
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日本国憲法の改正要件は国際的にみて厳しすぎるの?

多くの国が憲法については厳しい改正要件を掲げており、日本だけが厳しすぎるということはありません。

諸外国の憲法改正要件をみてみましょう。

【アメリカ】 
 @上下両院の出席議員の3分の2以上の賛成で改憲を発議
 A全50州のうち4分の3以上の州議会で承認

【フランス】
 @両院の過半数
 A両院合同会議の5分の3以上の承認

【イタリア】
 @各院の過半数の賛成
 A3箇月以上経過した後に各院の3分の2以上の賛成

【スペイン】
 @両院の3分の2以上の議決を2度経る
 A国民投票で過半数の賛成を得る
 (憲法の全面改正や人権規定等の重要規定の改正の場合)

【カナダ】
 @各院の決議
 A3分の2以上の州議会の承認
 (承認した州の人口合計が全州の50%以上であること)

【韓国】
 @国会(一院制)の3分の2以上の賛成
 A国民投票(有権者の過半数の投票、投票者の過半数の賛成)

このような例を見る限り、日本の改正要件が突出して厳しいということは全くありません。
憲法改正について、大多数の国では通常の法改正よりも厳しい要件を設けています(硬性憲法)。
それは、憲法の持つ役割、すなわち権力を拘束・制限・統制するという内容の重さゆえに、容易に時の権力に都合の良いように変えられることがあってはならないからです。 
自民党は、改憲の必要性を説くために、さも日本国憲法が世界的に見て異常であるかのように印象付けようとしています。
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一度も改正されていない憲法は古くさいの?

いいえ、日本国憲法は今でも世界の最先端です。

確かに日本国憲法は2013年5月3日で「66歳」と、改正されずに手つかずで生き続けた長さは、現存する憲法の中では「最高齢」です。
66年もの間一度も改正されていないことからすると、確かに古くさくないかと心配になるかもしれません。
しかし、改正の回数が問題なのではありません。重要なのはその内容です。

アメリカの法学者による最近の調査結果によっても、日本国憲法は今も「世界の最先端」であることが裏付けられています(朝日新聞2012年5月3日)。
この調査は、成文化された世界のすべての憲法188ヶ国分を、国民の権利とその保障の仕組みの項目毎に比較・分析したものです。
この調査結果を見ると、時代とともに新しい人権の概念が産まれ明文化されたことが分かります。
例えば、女性の権利をうたった憲法は1946年は世界の35%だけだったのが2006年には91%に達しています。
日本国憲法は、このようにして世界でいま主流となった人権の上位19項目までをすべて満たしているのです。
人気項目を網羅的に備えたモデルとしては、近年最先端の規範として頻繁に引用されるカナダ権利章典をも上回ります。
日本国憲法25条の生存権の規定等も、世界的に見て先進的なものです。
また平和主義の点においても、いまや世界の多くの国々が憲法に平和条項を持っていますが、日本国憲法9条ほど徹底した平和主義の憲法はありません。
この調査を行った法学者2人は、「65年も前に画期的な人権の先取りをした」ものとして、日本国憲法は「世界の最先端」にあり「不朽の先進性」をもっていると評価しています。

このように、改正の回数と内容の先進性にはまったく関連性がありません。いま私たちに必要なのは、この「世界の最先端」と評される憲法を「変える」ことではなく「活かす」ことなのです。
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改正要件の緩和は安部首相が言うように「国民の手に憲法を取り戻す」ことなの?

改正要件の緩和は、「国民の手に憲法を取り戻す」のではなく、「憲法を権力者に売り渡す」ことになりかねません。

権力者(=多数派)は、国会で多数決により国民の権利や自由を制限する法律をつくれます。
例えば、「政府を批判する発言は許されない」という法律を国会の多数派が制定したとします。
しかし、憲法は、国の最高法規として、表現の自由など多数決によっても奪えない国民の人権を定めていますので、この法律は憲法違反で無効になります。
時の権力者の都合で国民の人権が侵害されないように権力者を縛るのが憲法です(立憲主義)。

ところが、「改正要件の緩和」で時の権力者(=多数派)の都合で容易に憲法を変えることができるようになります。
それは「国民の手に憲法を取り戻す」のではなく、権力者を縛っていた憲法の綱を緩めて、「権力者(=多数派)の自由を拡大する」ことを意味します。

では、多数派は常に正しいのでしょうか。
多数意思が過ちを犯すことは、ナチスや戦前の日本の例からも分かります。
憲法が発議要件を3分の2としてのは、少数派の人権を守るという立憲主義の現れです。
国民投票では、結論を決めるだけで、議論をしながら国民の大多数が納得できる改正案をつくることはできません。
国民投票だけでは、その時々のムードにながされて多数意思が少数者の人権を侵害する危険があります。
そのため、憲法は、慎重な審議の上で国民の大多数が納得できる改正案を作ることを求め、国会の3分の2の発議を必要としたのです。
多数意思が誤ることがあるという歴史的事実をもとにした知恵の結晶です。
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